おたふくかぜのウイルス(ムンプスウイルス)に感染し、その合併症の1つである難聴のことです。おたふくかぜは,ほほの内側にある耳下腺が腫れて痛む、高熱が出るなどの症状で知られています。「流行性耳下腺炎」とも呼ばれています。NHKの朝ドラ(半分青い)の主人公の鈴愛さんがかかったことで、一躍注目されるようになりました。しかし、3割程度の方は、ムンプスウイルスに感染しても、そうした症状が出ません。鈴愛さんもこのタイプでした。20〜30年前はおたふくかぜの患者のうち約2万人に1人とのことでしたが、最近急増しているとのことで、現在では数百人に1人とのデータも出ています。
●ムンプス難聴の症状
高度ないしは重度の難聴 ほとんどがスケールアウト(失聴ないしは聾)になります。普通 片耳ですが、まれに両耳に発症することもあります。就学前の両耳の発症の場合は、急性発症の両側高度感音難聴であるために、何のケアもしないでいると、今まで獲得した言語が失われていく。自身のフィードバックによる音声のコントロールもなくなり、発声自体も減少します。発症後しゃべらなくなり、言語聴覚士が介入しないと話すことができなくなる恐れも出てきます。難聴に伴って、めまいや耳鳴りが出てくることも多いです。ムンプス難聴 で入院する場合はほとんどがめまいや吐き気のためのようです。めまいは発症から長くても数カ月程度で軽快することが多いです。耳鳴りは、やがて軽快する方もいれば、生涯にわたって続く方もいます。程度に関しても、ほとんど気にならないという方から、強いストレスを感じる方まで、さまざまです。
●ムンプス難聴の発症年齢
「乳幼児・学童」と「子育て世代」が中心。発症年齢は2〜3歳が最も多く、次いで6〜13歳、20代後半から40歳ぐらいまでの「子育て世代」の成人が多いようです。家庭内で子供がムンプスに罹患し、予防接種歴や罹患歴のない親が感染している可能性があるようです。
●先進国の中で唯一、定期接種化ない日本
ムンプス難聴は、ムンプスワクチンで防ぎえる合併症ですが、現在の日本では定期接種が中止されていて、復活が要望されています。1993年以前は麻疹、風疹にムンプスワクチンを加えた3種混合(MMR)ワクチンとして定期接種となっていましたが、ワクチンによる無菌性髄膜炎の有害事象が増えたとして中止されました。それに加え、海外での小児期の2回の接種後、思春期から青年期にかけてのムンプス流行が起きていると言った「ワクチン効果の減弱」の問題が指摘されていることも関係があるようです。
●片耳難聴の困難
- 難聴側の音が聞こえづらい。 電話中の声かけに気付かない、教室の席によっては聞こえづらい。
- うるさい場所において聞こえづらい。電車の中とか、飲み会等、たくさんの声が行きかうところでは、聞こえる側の耳でも聞き取りにくいということです。
- 音がどこから聞こえているのかわからない。音の遠近間隔や方角は、2つの耳を使うことで初めて感じ取ることができますが、片耳ではそれが困難です。どの方向から話しかけているのかわからない、道で歩ながら話すときに車の音などで聞きにくいといったことです。
- 聞こえないことから生じる心理的な負担感。相手の話を聞きとれなくて「無視された」と思われていないか心配になる、会話に入ることをあきらめる、座る場所を考慮してもらうことがおっくう、などがあります。
●ムンプス難聴の治療
病院ではステロイド等の治療が行われていますが、完治例はないとされています。付随症状のめまいは軽快することがあるようです。片耳の高度感音難聴の場合は言語の獲得や会話にはほとんど支障をきたさないため、聴覚補償を行うことはありませんが、両耳の高度難聴の場合は聴覚補償が必要になります。言語聴覚士が介入し、声を出すこと、話すことなどの指導が必要になります。人工内耳が適応と判断される場合もあります。
●ムンプス難聴の鍼灸治療
鍼灸治療によりムンプス難聴が改善することもあります。
普通、ムンプス難聴ではスケールアウト(失聴)になります。スケールアウトになりますと、悪い耳のほうから車のクラクションが鳴っても、いい耳のほうに音が入り、勘違いして反対側に避けてしまう危険性が出てきます。鍼灸治療では、この危険回避ができるレベルの回復をまず、目指します。100デシベルまでの回復です。これが一番目の目標です。中学以上 のお子さんや成人では、発症後3週間以内の鍼灸治療で、100デシベル以内に復帰することは多いです。小学生までのお子さんや、発症後3週間以上の症例では回復しないことも多いです。次に目指すレベルは、50デシベル程度の回復です。これは、1対1での会話が可能なレベルで、中学以上のお子さんや成人では回復された方がいます。これは2番目の目標です。3番目の目標は、完治レベルですが、ここまでの回復はまだ、ありません。もう少し というところまで回復した例はあります。ムンプス難聴の完治が念願です。
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